介護施設における法的問題Q&A

施設の運営上生じる様々な法的問題について、顧問弁護士の櫻井康夫先生に分かりやすく解説していただきます。

櫻井康夫先生の略歴

1971年横浜地方裁判所判事補となる。以後、東京、横浜、水戸、静岡にて、主に家庭裁判所判事として2003年まで勤務。2014年まで静岡にて公証人。同年5月、静岡県弁護士会に弁護士登録をし、現在に至る。

質問一覧

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Q1 後見人が、本人に代わって医療行為の同意をすることはできますか。
Q2 入所者の治療に関し、施設長が医療機関から医療行為の同意を求められた場合、これに応じなければなりませんか。
Q3 施設入所にあたり、後見人に対し、保証人や身元引受人になることを求めることはできますか。
Q4 後見人の職務である身上監護と財産管理に優先順位はありますか。
Q5 要介護度3以上であれば、成年後見の対象になりますか。
Q6 利用契約書の本人欄について、本人に代わり家族に署名してもらうことは、問題はありますか。
Q7 特別養護老人ホームに入所中の方が、体調不良であっても治療を受けることを拒んでいます。判断能力を欠く常況にはありませんが、今後、体調が急変することも考えられます。施設としてはどのように対応したらよいでしょうか。

Q1 後見人が、本人に代わって医療行為の同意をすることはできますか。

(回答)できません。

(1)本来、医療行為は、それを受ける患者本人自身の身体と命にかかわることですので、それを受けるか、否かは本人だけが決められる「一身専属的」なものであり、自己決定権の内容に属するのであって、親族であっても本人に判断能力がある場合には、他の者が代わって同意することはできません。しかし、本人が意識不明や明確な判断ができないような場合には、親族の同意で足りるというのが、医療機関の実務のようです。

(2)後見人の職務範囲は、本人の財産を管理することと、身上を監護することです。この問題は、身上監護に関することですので、身上監護について述べることとします。身上監護とは、本人を見守り、本人の心身の状況を常日頃から把握し(家族やヘルパーなどの介護関係者らから、間接的にでもいいですが)、必要に応じて、ケアマネジャーらと連携し、介護契約を締結し、どの程度の介護を受けるかを決めることや、適切な病院を探して、その病院に行かせて診察を受けさせたり、時には入院させ、治療を受けさせたりする医療契約又は介護契約を、本人を代理して締結することです。これには費用がかかるので、本人の財産から後見人が支払いますが、このように財産管理とも関係してきます。なお、後見人の職務範囲には、本人を直接介護することの事実行為は含まれません。

(3)問題となるのは、本人が、特に侵襲的な医療行為(検査を含む。検査といっても、時には危険を伴うこともあり、病院はほとんど本人に同意書を求めます。)を受ける際に、本人が認知症などで、あるいは、突然の病気により意識がないような時には、本人から同意が取れない場合があります。しかも、緊急な治療が必要です。しかし、本人にとっても、医療機関にしても、同意が取れないからといって、何らの措置もせずに放置しておくわけにもいきません。

(4)このような場合には、親族(多くの高齢者の場合では、原則として、まず、配偶者が、次いで同居の子、子、兄弟姉妹、甥姪の順になります。)がいれば、なるべく近い親族(内縁の配偶者には、同意の権限は、原則として、ありません。)に同意をしてもらうことになるでしょう。

昨今、親族と疎遠だったり、所在が分からない場合も多くなってきました。このような場合には、同意をする者がいないことになります。医療機関は、このような場合には、後見人に同意を求めてくることもあるようです。医療機関は、後見人に同意権限があるものと考えていて、現に、医療機関から同意を求められたという経験をした後見人は、相当数あるようです。しかし、後見人には同意をする権限はありませんので、すべきではありません。そもそも、後見人が財産管理を主たる目的とする場合には、親族ではない弁護士などの専門職が後見人に選ばれますが、このような者に、本人の生命を左右しかねないような判断の権限を与えることは、適切ではありません。

ただし、採血、軽い怪我の治療や肺炎や風邪の予防注射などは、本来の後見人の身上監護の権限の行使としてなされた診療契約に含まれるものとして、その都度の同意は不要と考えられますが、医療機関は、確実を期するために、後見人が同意という形で、確認することもあるでしょう。  

Q2 入所者の治療に関し、施設長が医療機関から医療行為の同意を求められた場合、これに応じなければなりませんか。

(回答)応じるべきではありません。

(1)質問1で説明したように、本来、治療行為に同意するか否かは、本人の自己決定権の問題ですから、介護施設の施設長は、これに同意することはできません。  

しかし、施設長に同意を求めてくるのは、本人の親族がいないか、親族に同意を求められない事情がある場合でしょう。施設長は、本人と常日頃、長い間接しているので、医療機関としては、親族に準じた者と考え、施設長に対して、入所者の手術等について同意を求めてくることも、現実にあるようです。

施設は介護することを契約上の義務として負ってはいますが、入所者の生命・身体に関わる医療行為に同意を与えることまでの義務があるわけではありませんから、当然、医療機関の求めに応じることはできませんし、してはなりません。 

(2)ただし、施設長は、本人について、入所時に、あるいはその後に、本人の平生の、あるいは終末期の医療についての希望を書面で聞き取っていたり、また、それがなくとも、普段の本人の言動から本人が望んでいたこと等の情報を持っているので、本人の利益のためにも、それを医療機関に伝えて、医療機関が適切な措置をとれるように協力することは、差支えありませんし、むしろ望ましいことです。  

Q3 施設入所にあたり、後見人に対し、保証人や身元引受人になることを求めることはできますか。

(回答)できません。

(1)後見人の職務については、質問1で説明したとおりですので、参照してください。 

まず、「保証人」のことですが、施設としては、本人に資力がなく、入所費用等の支払いがない場合に、本人に代わって、費用を支払う責任を負うことを、施設に対して約束した者です。これは、書面でしなければなりません。施設としても、費用を支払ってもらえないことは、施設の事業の運営に大きな支障をきたすので、保証人をつけることを要求するのは、当然のことです。

(2)しかし、後見人が本人の保証人になることはできません。その理由は、もし、後見人が本人に代わって介護費用を支払った場合には、本人に求償することができますが、これでは、後見人と本人とが利益相反関係になってしまいますので、その意味で保証人になることができないのです。普通は、親族等が保証人(医療機関では、多くの場合、別世帯の資力のある者を要求することがあるので、配偶者は、保証人になれない場合があります。)になっています。

(3)保証人がどうしても確保できない場合、保証人の役割を果たしてくれる法人も現れ始めているようですから、後見人としては、そのような法人を探して、その法人の業務内容を精査し、施設とも相談して、そのような法人が保証人になれるか、よく検討してください。

(4)身元引受人(身元保証人という場合もあります。以下、併せて「身元引受人」といいます。)ですが、まず、本人の「身元」を引き受ける責任を負うことになります。本人が、何らかの事情で退所する場合に本人の所有物を引き取ること、死亡した場合には、遺体や遺品を引き取ることでしょう。施設として、入所の際に身元引受人を要求することは、合理的な必要性があります。

しかし、身元引受人は、本人の身元を引き受ける責任に加えて、保証人のように、費用を立て替えて支払う責任を負う場合があります。そのため、契約書において、身元引受人がどのような義務を負うとされているかをよく確認する必要があります。

なお、退所の場合には、後見人は、身上監護の職務として、自宅介護にするか、新たな介護施設を探して入所させるかを、決めなければなりません。

(5)しかし、身元引受人がどうしてもいない場合には、身元引受人と同様な責任を負ってくれる法人も多少は現れ始めているようなので、後見人としては、保証人の場合と同様に、適切なそのような法人を探し、施設と相談してください。

Q4 後見人の職務である身上監護と財産管理に優先順位はありますか。

(回答)優先順位はありません。

(1)民法の規定では、身上監護の義務が財産管理義務よりも先に規定されていますが、これは優先関係を示したものではありません。むしろ、双方が相まって、後見人の職務が、よりよく全うされることになります。

(2)身上監護の義務とは、常日頃から本人を見守り、本人の意思を尊重しつつ、心身の状態や日常の生活に配慮し、本人の心身の状況にあわせて、適切な措置を講じることです。病気になったら、治療を受けさせたり、入院させたり(そのために、適切な医療機関を把握しておく必要があります。)、生活が一人では覚束なくなったときには、必要な介護を受けさせるようにし、治療や介護が適切になされているかを見守ることです。また、ケアマネジャー等の福祉関係者と相談し、介護度が高くなった場合には、時には居住していた不動産を売却して(これには、家庭裁判所の許可が必要です。)、適切な有料老人ホームなどに入所させることなども含まれます。これらの後見人の仕事は、とても骨の折れる時間のかかる仕事です。そして、これらの費用は、後見人が管理している本人の財産から支払うことになります。

居住の不動産を処分し、施設に入所させることもあることは、身上監護と財産管理とが密接に結びついていることが分かります。

(3)財産管理の義務は、判断能力の衰えにより、本人が適切に自分の財産を管理できなくなった場合に、その義務を果たすために選任されるものですから、後見人は、本人の身上を配慮しつつ、その財産を管理し、時には処分することもできます。後見人は、特別な預金口座を作って、一括管理し、年金の支払いを受けたり、本人にかかわる諸費用を支払い、時には本人が所有するアパートなどの不動産の管理もします。多額の預金がある場合には、家庭裁判所の指示によって、当面必要な金額を除いて信託銀行に預託させることもあります。

財産が多額な場合、家庭裁判所は、法律の専門職の弁護士等を後見人に選任していますが、これらの専門職は、必ずしも福祉に通暁しているとはいえないため、ややもすれば、身上監護の面が手薄になると聞きます。そのような場合には、福祉関係者を複数後見人の一人に加え、身上監護については、その後見人が担当するということもあり得るでしょう。  

Q5 要介護度3以上であれば、成年後見の対象になりますか。

(回答)場合によります。

(1)成年後見には、判断能力の程度に従って、軽い順序から「補助」(これは、判断能力はあるが、本人の安全のために補助人が付けられるもので、申立て自体に本人の同意が必要です。)、「保佐」、それに「後見」がありますが、ここでは、後見だけを述べることとします。

(2)要介護度3について、その状態像は、身体的な側面と精神的な側面があります。法定後見の対象となるか否かは、精神的な側面のみをとらえてこれを行います。「精神的な」ということは、判断能力のことで、結局は、自分の財産を適切に管理しあるいは処分できるかということになります。

(3)身体的な病気や事故による怪我による全身麻痺により、常に全面的な介護が必要な場合でも、判断能力が損なわれていなければ、後見の対象にはなりません。しかし、多くの場合、高齢になって日常生活に介護が必要になる方は、認知症も進んで判断能力が衰えていることも多いことがよくあることです。

要介護度3の状態像の大まかなことをいくつか挙げると次のとおりです。すなわち、「いくつかの問題行動や全般的な理解の低下がみられることがある。」、あるいは「毎日の日課、自分の生年月日を言うことができない又は分からなくなる、ついさっきまで何をしていたのか分からないといったような物忘れの症状が現れ、また、周囲のことに気が配れなくなる。」、「昼夜逆転、暴力行為、大声や奇声をあげる、介護の拒絶などの行動が現れることがある。」とされますが、多くの事例では、このような状態では、すべての状態が重なっていなくとも、自分の財産を適切に管理していくことは、かなり困難であり、容易に財産をだまし取られるような危険もあるので、多くの場合には、後見の対象となる可能性が高いでしょう。

Q6 利用契約書の本人欄について、本人に代わり家族に署名してもらうことは、問題はありますか。

(回答)問題はありません。

(1)このようなことを、署名の「代行」と言います。署名は、本来、本人が自らすることを、当然に含んでいるのですが、例外的に本人には判断能力があるが、手が不自由で、自分で署名できないような場合には、本人の指示や依頼を受けて、他人が本人の代わりに、契約書に本人の名前を書くことは、差支えありません。本人が署名したものとして契約は有効に成立します。ただし、本人に判断能力がないときには、本人の許諾なくして勝手に本人の名前を署名してしまうことになり、契約の効果は生じないことになるので、注意してください。

(2)本来は、本人が自ら署名すべきことなのですから、このように例外的な場合には、なぜ他人が本人の名前を署名したか、その理由を明確かつ具体的に附記しておくべきです(施設入所契約書には、署名代行者欄があるものもあります。)。

例えば、「本人○○は、この契約内容をよく理解しているが、○○○(病名等)により、手が不自由なため、自ら署名できないので本人の依頼により、私・長男□▽が母に代わって署名した。」として、長男が、入所契約者本人としての母の名前を書き、次いで長男の氏名・捺印・住所を記載します。  

Q7 特別養護老人ホームに入所中の方が、体調不良であっても治療を受けることを拒んでいます。判断能力を欠く常況にはありませんが、今後、体調が急変することも考えられます。施設としてはどのように対応したらよいでしょうか。

(回答)本人や親族と、時には医療者も交えて、よく話し合って対応するしかありません。状況によっては、本人の希望どおりに、治療を受けないという意向を尊重してよい場合もあるでしょう。

(1)本人の生き方、死に方も含めて、どのようにするかは、本来、本人が決めることであって、自己の意思に反して他から生き方や死に方を強制されることはありません、ということはできます。しかし、これは生命倫理にかかわる微妙で困難な問題です。インフォームド・コンセントが強調され、患者の自己決定権がより鮮明に意識される昨今、検査や医療を拒否する方々が増えてきたというのが医療機関の認識です。

(2)本人に判断能力があるといっても、年齢、心身の状態を踏まえ、なぜ治療を拒むのかなどを、時期をたがえて複数回、よく聞き取り理解することが、まず必要です。  

特別養護老人ホームの入所者は、通常は、高齢で要介護度3以上ですから、判断能力(この場合の判断能力は、財産管理に関する能力より低くても尊重する必要があります。)があるといっても、やや低下しているのが実情でしょうから、本人の意向だからといっても鵜呑みにせず、その意向を慎重に見極める必要があります。

(3)本人がなぜ治療を拒否するのか、その理由は人さまざまでしょうが、しっかりした納得できる理由がないと思われる時には、本人に対し、今後起こり得る病状、それに対する治療の必要性(その内容、期間、効果、副作用、苦痛の有無、費用等)を分かりやすく説明し、親族を交えて、治療を受けることを、できれば医師も加わって、懇切に説得するべきでしょう。

今現在、苦痛もないと、医学的には病気があっても、それ以上の治療を受けないでもかまわないと容易に思うかもしれません。しかし、いざ耐え難い痛みなどの苦痛がおきれば、その苦痛を取り去るだけの治療を受けることを拒む方は、ほとんどいないのではないでしょうか。そのような苦痛を経験し、治療により苦痛がなくなれば、さらにもっと根本的な治療を受け入れるかもしれません。人の考えは、容易に変わることもあるのです。とくに、終末期の場合には、身体の状況も刻々と変化し、それに応じて、本人や家族の考えは、変転するものです。一旦、治療を拒絶したからといって、いつまでもそうであるとは限りませんので、常に本人の意向の確認が必要です。

(4)しかし、精神的に、判断能力がほぼ完全であり、諸般の事情から、現在も、将来も苦痛がないか、小さい場合に、もはや、いかなる場合でも、治療を受けないことの結果を熟知しながらも、強固に治療を受けないという方もおられるでしょう。  

このような場合でも、本人の意向は、家族に対する気兼ね、経済的な負担、今後の回復の希望のないことによる生きることへの疲れや絶望感などさまざまでしょうから、本人や家族の意向を再度よく聴きながら、どこまでが真意なのかを的確につきとめ、場合によっては、その懸念を取り除く方法もあることも含めて、さらに説得することもあり得るでしょう。  

それでもなお、本人の意向が確固たるものである場合には、それ以上を強制することはできないとして、施設としては、医療機関とも相談のうえ、医療機関に対して、治療を求めないこと、治療を継続しないことも許されることもあるでしょう。

(5)いずれにしても、このようなことに関与する場合には、後日、そのような措置が適切であったか否かを検証するためにも、また、遺族との紛争を避けるためにも、施設関係者、医師、できれば第三者も含め、複数の者で検討して決めるべきであり、その経過は、逐一詳細に記録にとどめておく必要があります。本人との対話をすべて録音、録画しておくことも、考慮すべきです。本人から、治療を受けることの拒否の意向と、施設関係者や医師に対する免責の書面を作成しておいてもらうことも一つの方法です。

財務情報
施設名社会福祉法人聖母福祉会 聖ヨゼフの園 

所在地


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